突然ですが、建築設計事務所の仕事ってどのような仕事だと思いますか。一級建築士を目指すような人は別にしてあまり深く考えたことがないのではないでしょうか。
建築設計事務所はその名前から簡単に内容を想像できるので、あまり深く踏み込んでその業務内容について考えさせないという面もあるかと思います。また何となく広告や家探しをするときなどに間取り図を頻繁に目にする為、何となくその間取り図を書くのが仕事と安易に想像して止まってしまいがちです。
よくよく考え直してみれば、独立して事務所を建てることの多い業界で、また一級建築士の資格が非常に難関であることを考えれば以上、そんな簡単な仕事のはずがありません。
今回は家を建てるのに必要な設計図について概略を見て、思っている以上に建築設計事務所には設計図があることをご理解いただき、過去の紙ベースの設計図が多ければ多いほど、スキャニングによるデジタル化の効果が大きいことを見ていきたいと思います。
家を建てたことがない人にとっては、家を建てるまでに必要な設計図の種類が必要かもあまり深く考えずに、何となく間取り図だけを想像しがちです。
しかし設計図書と呼ばれるものだけでも10種類以上あります。あとで詳説しますが、知らない人にとっては、思っている以上に設計の種類が多かったのではないでしょうか。
一般に設計図を見る機会は、不動産業や建築士などの専門職でもない限り、多くはありません。そもそも住宅購入というのが一生に何度もするものではないので、回数で言えば1回限りのものでしょう。さらに、そもそも注文住宅と呼ばれる形式で家を建てる場合でしか目にすることはありません。
建売や賃貸、マンション購入の場合、設計図を見るよりも実物を見学することの方が重要で、冒頭に申し上げたのと同様、間取り図で十分です。間取り図を見ながら見学して目にした情報を繋げられれば、比較検討には十分です。
先ほど出てきた設計図書。中々聞きなれない単語ですので、少し詳細に解説します。
建築物の設計関係の書類は、一般に設計図書と呼ばれています。その種類は多く、例示していくと、
仕様書、配置図、平面図、平面詳細図、断面図、立面図、展開図、電気図、家具図、造園計画図、境界承認図、構造図(基礎、土台、梁、小屋、野地)…
といった感じで非常に多くの書類があります。
これらは大きく分けると、意匠図、構造図、設備図の3種類に分類できます。
これは建物の形や間取り、デザインなどいわゆる見た目全般に関する資料、設計です。間取りのイメージだけでなく最終的な出来上がりをイメージする重要な設計です。平面図、断面図、立面図、矩形図、天井伏図、展開図などがありますが、重要なのは、「配置図」「平面図」「立面図」「展開図」です。少し細かく見ておきましょう。
敷地内における建物や付帯設備の位置などを描いた図面のことです。方角、隣地の境界線、道路の位置・幅、土地の高低差などが明記されており、敷地全体の様子を知るための設計です。
建物を建てる際は、アプローチ(門から建物入口までの経路)の空間、日当たり、電気・ガス・上下水道などのインフラ整備を考慮する必要があります。配置図は敷地内や周囲の環境が分かるので、建物の配置を決めるのに役立ちます。
いわゆる間取り図と思ってよい設計図です。細かいことを言うと、床面から1〜1.5mの高さで水平に切断した断面を図面にしたものです。全ての階分用意されます。不動産を選択する際と同様に、部屋数や間取りなど生活する上で重要な判断指標を確認するための資料と言えます。
さらに詳細な情報、フローリングの板の方向など詳細な情報を記載する平面詳細図というものもあります。平面図よりも大きな縮尺(より実寸に近い縮尺)で記載しますので、一部を拡大してみるようなイメージです。
建築物の概観を四方(東西南北)の4面から表した図面です。住宅の完成予想図で出来上がりイメージで最も想像するものの一つでしょう。建物を外から見た場合の玄関扉や窓、フェンスやバルコニーのサイズ感、位置関係がわかります。
部屋の中心から各壁4面を1面ずつ見た状態を図面として示しています。平面図(間取り図)では分からない壁にある窓や扉の大きさのイメージを掴むための図面です。備え付けの家具との大きさの関係性の把握などに利用できます。
これは建物を垂直に切り取った様子を図面にしたものです。どちらかというと建物の性能を確認するもので、床の高さ、軒のサイズ感を把握し、基礎の高さや構造、床下の断熱処理や壁の断面の様子などを把握できます。
設計図書の重要な3分類の2つ目は、構造図です。家の構造部材を表した図面類を指し、柱や梁などの骨組みになる部材や、接合部の形式などを記載した図面です。床伏図、軸組図、配筋詳細図、基礎伏図、屋根伏図などがこれらに分類されますが、家主側の立場からすると、理解するのは難しいかもしれませんが、図面が存在するかどうかの確認が重要なようです。
重要な分類の3つ目が、設備図です。電気設備図、給排水衛生設備図、空調換気設備図などがあります。コンセントや照明の位置と種類、配水管やガスの位置、冷暖房器具や換気などの位置などを把握するための図面です。
生活水準を左右する重要な設備の情報なので、重要な資料になります。
その他、上記の資料以外にも、建物の概観デザインや玄関、駐車場へのアプローチなどを上空からの目線で確認するための外構図、具体的な工事の内容や方法について記載されている仕様書などがあります。
前節で見てきたように一口に設計図と呼んでも非常に多岐に渡り細かい図面がたくさんあることがご理解いただけたでしょうか。1千万円を超えるような高い買い物であり、また生活する上でのまさに基盤となる住処を作る以上、設計が細かくなるのは当然と言えば当然です。
ただ、この図面の多さは法律が要求していると言う部分も見逃せません。建築設計事務所は建築士法で様々規定されています。その中で、設計図については書式(フォーマット)を定めているだけでなく、保存期間も指定していて、15年間建築事務所が保存する義務を負っています。
費用が非常に高額なものである以上、当然ではありますが、一昔前に発覚して大きな問題になった構造偽装事件や手抜き工事などの影響で、国がしっかりと管理する為に情報として提出させ、設計者や施工業者にしっかりと責任を持たせるという面もあります。つまり最低限の安全性を維持するための手続きが形になったものが多岐にわたる設計図群、設計図書と言って良いでしょう。
保存期間も当初5年だったものがより責任をしっかりと持たせる為に15年に延長されました。
設計図の法律に関するところでも触れましたが、設計図には保存期間が定められていました。これには捺印が必要と法律に規定されていた為、紙媒体での保存が基本となっていました。平成17年にいわゆる「e-文書法」と呼ばれる法律で電子媒体での保存も許されてはいましたが、法律の理解が進まないことと、具体的な方法が広まらなかったことから、紙媒体での保存が主流となっていました。
ガイドラインを策定するなどの業界の努力などで徐々に広まりつつあり、さらにデジタル庁の設立など、政府全般がデジタル化に大きく舵を切りつつある中では、今後デジタルフォーマットでの保存が主流になり、法律的にも必須になる可能性が高いです。
そうなると、過去に保存してきた紙媒体というアナログの設計図と今から保存するデジタルフォーマットの資料という二元管理になるのは如何にも非効率になります。
今までに見てきた通り、そもそも一つの建築物に対して多岐に渡る設計図が存在するので、古い建築設計事務所ほどたくさんの設計図を抱えています。それに設計者からしたら、精魂込めて書いた設計図です。愛着の深さは建物の大きさに比例するでしょうし、手書きであればなおさらです。図面を会心の出来で書けたものを破棄する、捨てるという気分には中々ならないと言う面もあるでしょう。
設計図は比較的古くからCADと呼ばれるアプリケーションを利用してパソコンで作られています。今では手書きで書かれていることは皆無と言って良いかもしれません。
比較的古くと言ってもパソコンの黎明期からですから、おおよそ30年くらい前ですが、CADが出始めた頃のパソコンは、非常に高価なものでCADのソフト自体も今では考えられないくらい高い値段がついていました。ただ、建築事務所は経済面で見ると、一つの設計に対する費用が高額で利益率が高いことから、ツールとしてある程度高価でも導入できる体質があった為、CADでの製作というのが早くから導入されてきた経緯があります。
また見てきたように作成しなければならない図面は多岐に渡ります。これらを設計を考えた上で一からそれぞれ手書きしなければならないというのは思いの外、肉体的重労働です。個人事務所ではない限り広く手分けして作業することになっていたでしょう。つまり人件費も嵩むことになります。CADを導入できればそのコストが浮きます。
また作業本体部分だけを考えても、本質的には設計部分を「考え、想像する」部分にフォーカスしたいと言うのが、建築士の本音でしょう。そう言う意味でも、建築士がまず考えるデザインをCADで作り、それから必要な図面を半自動的に作成できるCADの手軽さは相当な魅力だったはずです。
図面を手で描く場合、実際に図面を引くという手技という面での技術の研鑽が必要になってきます。一つの芸術品として設計図を見た場合、価値がありますが、書き手によって最終クォリティに差が出やすいのは、建築事務所としては品質が安定しないということになります。
つまり採用時に考えなければならない重要な要素が一つ増えることになり、雇う人の選択肢を狭めかねません。そう言う意味でも、少なくとも印刷物としてのクォリティが維持できると言う意味で、経営者も高額なコストに納得がいきやすかった面もあったかもしれません。
CADが利用され始めた当時、インターネットの利用という面以外でパソコンを本質的に活用できていた分野というのは実はそれほど多くないですが、その本質的に活用できていた数少ない分野がこのCAD、設計の部分と言って良いぐらいデジタル化では先行していました。
ただ、これだけそもそもデジタル化や省力化が進んでいたにも拘らず、前述した法律の保存期間の定めによって、紙媒体での管理は別途必要でした。この辺りは今後変わっていく可能性はありますが、2022年現在でも、紙媒体での資料保管は続いているところが多くあるようです。
建築事務所が作成する設計図は、想像以上に多岐に渡り1つの建物だけで非常に多くの枚数が存在します。それらは、実際に大きな構造物を作る以上、設計図に記載しなければならない情報が多くなるという性格とともに、居住者の安全を担保する為にも法律である程度要求されているからでもあります。
さらにその法律で15年間保存義務があるため、建築事務所には非常に多くのアナログ媒体での設計図があるのが今現時点(2022年)での実態です。
ただ、今後の流れはデジタル化の方向にしか向かないでしょう。紙媒体に戻ることはおそらくありません。さらに設計はパソコン一つでできてしまうところもあるので、実はリモートワーク向きです。実際の家の建築現場に出向くということはもちろん必要ではありますが、設計図を書くという本質的な部分については、まさにパソコンさえあれば、どこでもできてしまいます。
そういった時代の流れに沿う為にも、アナログな資産をデジタルに変換することは必要になってきます。設計図は図面ですので、大きく閲覧できればあまり細かい検索をすることはないでしょう。いつ、どこの建物かという付属情報があればほぼ事足りるはずです。これはスキャニングによるデジタル化には非常に適している素材と言えます。アウトソーシングでスキャニングできる業者は多くありますので、ぜひ検討してみることをお勧めします。