アナログデータをスキャニングなどでデジタル化することは、作業効率という面で語られることがほとんどです。
膨大な紙資料を資料質の中からまず探し出し、そこから索引を見て当該ページを探すという手間に比べて、Webページの検索窓などでキーワードを入れるだけで資料が見つかり、必要な資料を閲覧できるスピードには到底敵いません。このような効果は最もイメージしやすい効果ですし、実際アナログな作業に比べて画期的な効率化が見込めるので、確かに語られるべき面ではあります。
ただデジタル化の効果はそういった直接的な作業への影響だけではありません。間接的に与えるポジティブな効果も見逃せません。
今回はそういった副次的な効果、しかしやり方によっては非常に大きなものになりうる効果、スキャニングを含むアナログデータのデジタル化によるスペースの創出について考えます。
まず一般的なアナログデータのイメージ、具体的に物理的にどのような形をしているかについて考えます。
最もイメージしやすいのは、例えるなら図書館の本棚のように整然と一定のルールに基づき並べられて、かつどの本がどこにあるかについて目録が整備されている状態、企業や役所の資料室であれば、時系列に年代別に各資料を並べて保存して置かれている状態でしょう。ドラマなどで出てくるシーンで、図書館の中やサスペンス系のとかでよく出てくる古い資料を探すシーンを思い浮かべればよいでしょう。
この資料や図書が置かれている場所は一つの大きな特長があります。それは、その場所が結構な広さであるということです。当然と言えば当然でしょう。図書館で言えば、政令指定都市の地域の図書館で大体9万冊ぐらいの蔵書があるそうなので、本を置く場所だけで、結構な場所をとります。ある地方の図書館の広さを調べてみると、本が置かれているスペースだけで480 m²ぐらいありました。
数字だけだと少しイメージしづらいでしょうか。車1台のスペースが大体14m²のようですので、車35台弱のスペースです。本というアナログな紙媒体を保存するには結構なスペースが必要ということがイメージ出来たでしょうか。
企業の資料室の規模もここまでではなくとも、それでも本社ビルなどが古い建物だったりすれば、ワンフロアを占有してしまうぐらいの規模になりかねないぐらいの資料があることはそれほど珍しくないでしょう。
ここまでを纏めると、アナログ資料の保存には、物理的な形が必ず伴うので、活用、保管するには広い物理的なスペースが必要ということです。
分かりやすくご理解頂く為に上記までに例示したようなパターンは、実は非常に理想的な形です。組織に体系的に管理してあれば、運用する手間はかかりますが、まだ図書や資料を活用できる可能性が低くは無いという意味で理想的ということです。企業や地方公共団体で資料課といった部署が置かれていれば、この状態を維持できている可能性はあります。
ただ、会社の規模がそれほど大きくなければ資料課を作る余裕などなく、資料室と呼ばれる場所はもっと煩雑な管理をされていることが往々にあります。探して活用する資料の置き場として機能させる気が全くない状態になっていることも多いはずです。もしかしたら、「えっ、ここ資料室だったの?」というゴミ屋敷レベルの状態になっていることも珍しく無いかもしれません。
もっと酷い場合は、各個人スペース、端的に言えばデスク、机の周りを相当な資料で占有されている状態、いわゆる”昭和な職場”になっている可能性もあります。今時パソコン(PC)を使っていないことはほぼ稀かと思いますが、世代によっては紙媒体でないと落ち着かないなどの理由で紙媒体に溢れかえっていることは未だに散見されるからです。完全にデジタルネイティブだけの世代になるにはまだ時間は掛かるでしょう。
管理されていないとは言え、アナログの形をしていれば場所は必要なわけです。まったく活用される見込みがないにも関わらずスペースだけを占有してしまうのはまさにデットスペースという言葉が嵌まる状況と言えるでしょう。
なぜここまでアナログデータが膨大に存在するのでしょうか。今度はその原因について少し考えてみたいと思います。
法律で保存が義務付けられているということが最も大きな理由の一つです。
まずどの業種でも必ず保存しなければならないのが、経理、会計、決算などの資料で、つまり納税に必要な情報です。
会社の決算書や総勘定元帳、仕訳帳、各種補助簿は、会社法に基づき10年間の保存が必須とされています。領収書、請求書、預貯金通帳については、税法で保存期間が定められており、7年間の保存が必要です。
定款や登記関係書類は会社法において保存期間の定めはありませんが、これらは事業の生い立ちや歴史を残すものですので、保管されるべきでしょう。
これらの資料は会社の規模が大きくなればなるほど膨らみます。
それから比較的イメージしやすいところですと、建築に関する図面です。
建築士法では、建築士事務所の業務に関する図書(設計図書など)は、15年間の保存義務があります。 また、設計図書だけでなく、工事監理報告書、業務に関する帳簿も保存義務があります。
建築関係の資料は建物規模がそれほどではなくても、そもそもA3以上の大きさの紙媒体であることは多々ありますので、結構場所を食う量になってしまうことがあります。建築物が大掛かりになればなるほど、資料の量は甚大になりますし、建築事務所の規模が大きくなれば、それだけ案件数も増えることになるので、相当なボリュームになるはずです。
しかも、過去の建築は実際に目にできるとは言え、中に入れるケースばかりではありません。その為、設計図を体系的にきちんと管理、保存していく必要もあるので、実務上でも保存されやすい性質を持っていると言えます。
金融機関であれば、取引履歴なども保存の義務があります。金融機関は比較的昔からデータの電子化が進んできた分野ですので、現在はそこまでではないにしても、全ての口座のお金の流れをきちんと過去に遡って把握できるようになっている必要がありますので、尋常ではない量の紙資料がかつてはあったはずです。
資料は非常に重要ながら、人的なリソースが慢性的に不足している業界、分野である為、資料整理が一向に捗らず溜まっていく一方になってしまうケースです。
端的にいうと大学などの研究機関がそれらに該当するケースでしょう。大学の場合、テレビのニュースや番組で取り上げられたりする資料室の状況は標本など本質的にデジタル化に馴染まないものでスペースを大きく取られることも多いですが、それだけではありません。
論文の量も尋常ではない量存在します。歴史のある大学であればあるほど、その蓄積は大きくなりますが、伝統的に人的リソースが慢性的に足りていない為、十分な管理、保存がされているとは言い難い状況です。
資料などは再活用される見込みが1%未満であっても0%と判断出来ない限り、捨てづらいものです。どうしてもいつか使うかもしれないと考えてしまうものです。今流行りの断捨離という考え方が発揮できればよいですが、責任の所在を少しでも考えてしまうと、セーフティにそういう発想に陥りがちです。
結果的に何でもとりあえず残しておこうとなってしまい、ボリュームが膨らんでしまう結果になってしまいます。
また丹精込めた資料ということもあるかもしれません。決算資料などに愛情を込めることは稀でしょうが、例えば何かの設計図やラフプラン、複数案用意した時の採用されなかったアイディア等、思い入れが深くなっている資料というものもあるはずです。企画が通り採用されるといったビジネス的な成功とは別に、資料やアイディアとしての完成度に酔いしれる時があるのは人情として否定しきれません。
デジタル化すると、どのくらいのスペースができるでしょうか。答えは非常にシンプルです。その資料室の占有スペース全てが新たに有効活用できる可能性があります。
デジタル化したデータは、単純にHDDやSSDなどの記憶媒体に保存されることになるので、一番簡便な方法であるパソコンの中に保存する場合は、パソコン一台分のスペースになりますし、もっと体系的に保存するとすれば、サーバ上で管理することになるので、資料室にあった場所にある必要がありませんから、丸々そのスペースを活用できることになります。
だいたい、テキストのみで保存したデータで本1冊を保存して10MBを越えれば相当なボリュームの本です。500ページを超える本です。仮に1TBの保存領域が用意できたとすれば、
1TB = 1024 x 1024 = 約1048,576MB
なので、単純に計算したとしても、500ページの本を104857.6冊の本が保存できる計算になります。テキスト化までしなくてもスキャニングによるPDF化だとしても、HDDなどのデジタルボリュームは多少嵩むことにはなりますが、不動産の賃貸料と比較する場合においては誤差の範囲でしょう。
もちろんHDDやSSDを用意するにもお金が掛かりますが、HDDの保存装置を買うと、大体1TBあたり2000円〜3500円ぐらいが購入する場合の料金です。クラウドストレージを借りたとしても、月額2000円もあれば、1TBの容量は借りられます。不動産として資料室のスペースを借りる料金と比較すれば圧倒的なコストダウンを実現できます。
実際にはサーバでデータを何かしら検索しやすいように配置し、システムを組む必要がありますので、そこまで単純な図式でコストダウンとはならない可能性はもちろんありますが、それでも不動産の賃貸価格と比すれば、日々の運用コストという面では、十分にコストダウンを期待できます。
実際のコストだけではありません。スペースが空けば、そこを何かに有効活用できるということになります。デットスペースだったものがプロフィットセンターになる可能性が生まれるこということでもあります。
単純に誰かに貸せば賃貸料を稼げるわけですし、新たな雇用をすることで新規事業を立ち上げることができるかもしれません。
今回はデジタル化による副次的ではあるが、非常にポジティブな側面、スペースの有効活用という効果についてみてきました。
人はロボットではありませんので、どうしても一定の割合非効率なことをしてしまうものです。その非効率という塵が積もり積もった場所の一つが資料室のような場所と言えるかもしれません。
今では、かなりのものがもともとデジタル化されている状態から始まっていますので、そういった塵は溜まりづらくなりつつあります。リモートワークが浸透してその傾向は拍車が掛かっているといって良いでしょう。ただ、資料室のような場所を活用しなければならないケースが業務フローの中に存在すると、結局ちょっとのことだけのために出社しなければならないなど、非効率化の切っ掛けになりかねません。
また世の中は世知辛くなる一方で、資本効率、資産効率などの持てる資産をどのくらいきちんと活用しているかという点も厳しく見られるばかりです。その時、ゴミ箱替わりのような資料室の存在は指摘されやすい部分になります。
とはいえ、溜まりに溜まったものをデジタル化する作業は気が遠くなってしまうのも事実です。その時はスキャニングやテキストの打ち込み作業のアウトソーシングは非常に良い選択となり得ます。
デットスペースの解消と有効活用が行える前提ならば、資産効率を上げる為のイニシャルコストとして、デジタル化の作業費用は安いものです。コスト回収も比較的早い段階でできるはずです。
まずは皆さんの会社全体を見渡し、活用されていない資料室がないか考えてみてください。そういう資料室があれば、それはある意味チャンスでもあります。そのスペースを有効活用できるという確実なメリットを生かすチャンスです。さらに余談で申し上げれば、埋もれていた資料にお宝が無いとは限りません。
ぜひ、スペースの有効活用の際には、スキャニングからでも良いのでデジタル化を活用して、さらに広いスペースを手に入れてください。