マーケティングという言葉は他の記事でも度々触れてきましたが、バズワード化して人や業種、職種によって様々なイメージを持ってしまっています。その中でも比較的多くの人が持っているマーケティングのイメージの一つに、プロダクトに関する「プロモーション」と認識している人が多いように思います。
またプロモーションと聞くと、マーケティングのイメージが広告代理店を惹起させる部分もあるためか、TVCMやTV番組の制作、スポンサーなどを連想させ、非常に華やかな側面を持っていそうな文脈で語られることが多いように見受けられます。
マーケティングの厳格な定義については、別の記事でご紹介しているのでそちらもぜひご一読いただきたいですが、簡単にまとめれば、「ある価値のあるプロダクト(製品やサービス)を提供する為の活動、仕組み全般のこと」であり、プロモーションだけを指す言葉ではありません。
ただ、非常に重要なプロセスの一つであることには違いありません。一部の概念や概要については別の記事でも触れていますが、手法や考え方は非常に幅広い課程の一つですので、今回はマーケティングにおけるプロモーションについて、その基本的な考え方について、今回はより深く紹介したいと思います。
プロモーションは、別の記事でも紹介していますが、「マーケティングミックス」「マーケティングの4P」の一つの構成要素(PromotionのP)で、プロダクトと最終消費者とのコミュニケーションを構築する課程、設計全般のことを指します。
もう少し具体的に言うと、例えばネットショップなどで価格調査も含めた市場調査で、市場の潜在的、健在的なニースを的確に掴み、製品やサービス、つまりプロダクトの適正な価格を導き出したとします。ただそれだけでは実際の売上に繋がるかと言えばそうではありません。
そのネットショップで扱うプロダクトに注意(Attention)を惹きつけ、興味(Interest)を抱かさせ、そのプロダクトを欲しい(Desire)と思わせ、実際の購買行動(Action)に結び付けさせなければ、実際の売り上げにはならず、的確なニーズ分析や適正な価格も絵に描いた餅に過ぎません。この消費者の態度変容(頭文字をとってAIDAと呼ばれます)を促進させる行動全般をプロモーションと定義できます。
ちなみにAIDAという考え方は、前に別の記事で紹介したAIDMAと似た概念です。というよりもAIDMAの考え方のベースとなった基本的な概念と言えます。
このプロモーションは、4つに分類することができます。「広告」「パブリシティ」「販売促進(セールスプロモーション)」「人的販売」です。これらは具体的な進め方の違いで、2つに分けることができ、広告とパブリシティが属する「プル戦略」、販売促進(セールスプロモーション)、人的販売が分類される「プッシュ戦略」の2つです。
プル戦略とは、AIDAの課程のAとI、つまり注意を惹きつけ、興味を持ってもらう役割の部分とも言えます。プッシュ戦略は残りの課程である、DとA、欲しいと思わせ、実際の購買行動につなげる役割と言えます。
別の見方、ターゲットの広さという観点からみた時には、
広告 > パブリシティ > 販売促進(セールスプロモーション) > 人的販売
という関係と言って良いでしょう。
実務上では、この4つを様々ミックスさせながら、進めることになりますので、プロモーションミックスと呼ばれたりもしますが、大枠の考え方を知っておくとより効果的に実務を進められるでしょう。
ここでも重要なのが一貫性です。マーケティングミックス、STPという課程を経て定めた消費者層ターゲットや、価格調査などに基づき価格戦略を練り、プロダクト全般の戦略を立てた時の方針にしっかりと沿うこと、矛盾しないことが何よりも重要です。
プロモーションの構成要素をそれぞれもう少し細かく見ていくことにします。
広告は、マーケティングと聞いて最も連想しやすいワードの一つだと思われますので、どういうものかは想像しやすいかと思います。TVや新聞、雑誌のオールドメディアからインターネットでの広告も含めて、多岐にわたるメディアで展開されています。
概論でも触れましたが、AIDAのAの部分、つまり注意喚起(Attention)を担う部分ですので、可能な限り手広く手を打てるに越したことはありません。基本的にはコストが掛かる部分であり、資金力によって戦略は様々でしょう。その辺りの各論の話は、また別の機会があればさせて頂きますが、一つ重要ななのは、メディア毎にそれぞれ掴んでいる消費者層があり、それらをしっかりと把握してどのメディアにどのくらいの予算を振り分けるなどの戦略が必要で、かつそれがマーケティングミックスで定めた戦略と合致している必要があります。
特に嗜好が細分化し細かくなっている現代においては、華やかなイメージとは裏腹に非常に複雑で、細やかな戦略、戦術が要求されますし、さらに多少の運も重要になってくるところです。
パブリシティとは、プロダクトをメディアが自らのコンテンツとして記事にしたり、番組内で紹介したり、ニュースとして取り上げたりされることを全般を指します。
重要なのは、「広告費を払って掲載してもらうことではない」という点です。プロダクトを保有している側が何かしらの金銭を支払う形でメディアに掲載されたり、取り上げたりしてもらうものは、全て広告になります。
よって、広告とは違い狙って打てる手法ではありませんが、費用が掛からないという点では魅力的な方式と言って良いでしょう。
また重要なのは、消費者が比較的重要度の高い情報、信憑性の高い情報として受け取られやすいという側面のある点です。
一方で、プロダクトやそれを取り扱う組織、具体的には会社全体に対するネガティブな印象を広めさせないということも重要です。ネガティブな側面に引っ張られてしまって、肝心の新商品の情報が伝わらなかったりするのはもったいない話です。様々なメディアに好意的にプロダクトを取り上げてもらうことを織り込んでいく意識が必要かもしれません。
各メディアは、ページや番組内の時間を埋めるために恒常的にコンテンツ不足に悩んでいますので、話題性やタイミングなどがあるとパブリシティのチャンスを掴めるかもしれません。
一般には、広報部門がCSR(社会的責任)、スポンサーシップ、PR活動の一環として行うようです。ユーザー間で大きく話題になるという点についてはどうしても受け身になってしまい、狙ってそう言う現象を起こすのは難しいでしょう。
実際に積極的に仕掛けることができるのは、新商品のプレスリリースなどがあります。ネタを探す方からすると、一つの切っ掛けになることが多いようです。
販売促進(セールスプロモーション)は、販売を促進するための手立て全般のことを指します。Promotionの訳語が促進で、マーケティングミックスのプロモーションと混同しやすいので、明確に言葉で分けるためにセールスプロモーションと呼ばれることが多いです。
これも比較的接点が広い活動であり、マーケティングの中で認知度の高い活動、施策と言えます。
セールスプロモーションや販売促進を略した「販促」という言葉は、営業活動や店頭販売などを行なっているとよく聞く言葉だと思いますが、つまり購買鼓動、つまりAIDAの最後のAに繋げるためのあと一押しを行うことを目的にした活動、施策全般のことを言います。
これについても様々なというより膨大な切り口や手法、考え方があるので、詳細な解説についてはまた別の機会に譲りますが、重要なポイントは最後の一押しを行うための施策であるところでしょう。
人的販売は、文字通り直接的に人が介在して行う活動のことです。アプローチできる範囲は他の3つと比較して非常に狭いですが、その分個々に対応をカスタマイズできるところが魅力で、非常に柔軟性の高い対応が可能というメリットがあります。
特に顧客との接点を持つことになるので、そこから細かいニーズや欲求を聞き出すことにより個々の顧客に最適な解決方法などの提案から長期的な関係を築くことで、顧客や現場の声を汲み上げてプロダクトに反映させる、マーケティング戦略にフィードバックするなどの仕組みも可能です。
ただ、人に依存するということは、影響範囲がその人的活動の範囲内に限られてしまうため、効果範囲で見た費用対効果という点では他の要素と比較すると弱い面があるかもしれません。また、人は機械やシステムではないので、その人の個性に依存しがちであり、継続性という点で問題が起きやすいという側面はあるかもしれません。
前節までで紹介したプロモーションの各要素は、一時代前と比較すると複雑さは比較にならない部分があります。それは一つには、プロモーションが人の心の動きに作用させることを目的とした活動、体系であることに起因します。
人の心の動きは、一定の法則性があるわけではなく、定石的な対応だけではプロモーションのサイクルが動きません。人には経験、体験といった記憶が積み重なっていきますので、定石的な対応をし続けると、消費者が慣れてしまい、効果が薄れてしまう為です。
言い換えれば、常に何か新しいものが要求されるという側面がある点があるということです。広告などはその傾向が顕著で、キャッチフレーズや手法などは見飽きられてしまうと、人の心は動かず、最初の注意喚起(Attention)の部分に至らず、見向きもされません。よって「今までにない」「盲点」といったところに力点が置かれがちになるので、今までの経験に依存できず、かつ過去に行われてきたプロモーション施策には無いものを探さなければならない難しさがあります。
もう一つは、インターネットとSNSの普及が局面を大きく変えたと言って良いでしょう。これはメディアが増えたという点でも複雑性を高めましたが、人の嗜好がより細かくしたという面でもプロモーションを難しくしています。
高度成長期からバブル崩壊前までは、良くも悪くも趣味趣向が今ほど多様にはなっておらず、広く嗜好が共有されている面がありました。メディアもTVと新聞の存在感が群を抜いていました。大枠の流れでみた時には、単純と言ってしまうと語弊はありますが、もちろん個々のクリエティブの部分では切磋琢磨は当然あったにせよ、少なくとも大企業のプロモーションのあり方も一本調子のところがありました。
しかしインターネットが出現して、SNSが現在のように隆盛を極めると、個々人が発信者となりえる環境が整い、実際ユーチューバーなどに代表されるインフルエンサーが雨後の筍のように増えました。また今まで潜在化していた細かい嗜好も、インターネットで同好の人たちと接触することが簡単になり大衆(マス)とは言えないまでも無視できない規模のグループを形成するようになりました。
そのことから今までの大衆(マス)を意識したプロモーションが効きにくくなり、より細かいターゲティングと複数の層に対してプロモーションを行なっていく多チャンネル化が必要になりつつあります。
今回は、マーケティングミックスの構成要素の一つであるプロモーションについて解説してきました。マーケティングという言葉と最もよく混同される活動で、一見華やかで面白そうではありますが、マーケティングの前段階で徹底した分析と練った戦略を前提にしないと上手く機能しない活動と言えます。
特に広告や人的販売においては、そのコストは非常に大きな額になることから、失敗した時の損失は痛手になりかねません。そのためにも徹底した価格調査を含めた市場調査による現状分析はしっかりとやるべきでしょう。
その上で、プロモーションを構成する4つの要素をよく理解して、AIDAを意識しながら適宜施策をうち、活動を行なっていくことが重要です。
ネットショップやインターネット通販の参入の敷居は技術的発展で低くなる一方です。他との差別化を図るためにもマーケティングは必須の課程であり、その基礎となる価格調査も含めた市場分析はしっかりと意識していきましょう。