面倒な商品価格調査を3円~で代行します!業界最安値挑戦中!

電話お問い合わせ お問い合わせフォーム

プロスペクト理論とインターネット通販での価格戦略

近年、行動経済学という言葉をメディアでもよく聞くようになってきています。行動経済学とは、経済学に心理学の視点を取り入れることで、人間の経済行動をより現実に即した前提で分析しようという学問を指します。そのため、人の行動を説明するのに便利な理論、分かりやすい理論があるのが特長です。

今までの理想論的な前提、「合理的な判断で人は行動する」ではなく「現実に即した行動をもとに分析」するという面は、投資など様々な面に応用されていますが、マーケティングの分野でも行動経済学の理論や手法の応用が進んでいます。

もちろん、インターネット通販・ネットショップ運営でも活かせる部分があると思いますので、今回はその応用されている理論、「プロスペクト理論」をもとにマーケティングの価格戦略について解説します。

行動経済学とは

まず行動経済学について押さえておきます。

古典的な経済学(誤解をおして言えば、いわゆるミクロ経済学とかマクロ経済学と呼ばれている学問です)では、「合理的な判断に基づいて人は行動する」というのが前提に理論を構築し、議論されてきました。ただ自明のことですが、現実にはそういう合理的な人ばかりではなく、合理性だけでは説明不能な行動は自他ともによくあることかと思います。

つまり合理的な判断に基づくという前提は、理想論的な面は否めませんでした。その点をより現実に即した分析ができるようにしようと考えたのが、行動経済学です。

具体的には、心理学的に観察された事実を経済学の数学モデルに組み込んでいくことでより現実に即した現象の分析を志向していくという方向性で発達してきました。

最初に行動経済学の考え方がうまえれたのが1950、60年代から始まりました。しばらくは非主流派の学問として見られていましたが、1990年代から急速に発展するようになって注目を集めるようになりました。

行動経済学には、現在までに「ナッジ」「サンクコスト」など様々な成果を挙げていますが、中でも「プロスペクト理論」という意思決定モデルは、経済学以外の分野で様々応用されており、マーケティングの分野においてもプライシングなどの場面で応用されています。

プロスペクト理論

プロスペクト理論は、古典経済学であるミクロ経済学の最も根本的な理論である期待効用理論で説明しきれない現象を分析するための仮説、理論として構築されました。この理論では「アレのパラドクス」として有名な期待効用理論のアノマリー、「確率に対する人の反応が線形ではない」と「人は富そのものではなく、富が変化した量に対して効用を得る」という認知バイアスが根底にあります。

プロスペクト理論の有名な実験、2つの質問で人がどう答えるかで考えてみます。


質問1

あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示された時、どちらを選択するか

選択肢A

100万円が無条件で手に入る

選択肢B

コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない


質問2

あなたは200万円の負債を抱えているものとする。そのとき、同様に以下の二つの選択肢が提示された時、どちらを選択するか

選択肢A

無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる

選択肢B

コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない


質問1では、どちらの選択肢も期待効用の理論では100万円と同額ですが、圧倒的にAを選択する人が多いとされています。

質問2では、これもどちらの選択肢も期待効用の理論では−100万円です。質問1の傾向からすれば、Aを選択する人が多くなりそうですが、実際には、ほぼBを選択するということが実証されています。

これは目の前に利益がある場合、より確実性の高いものを優先し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向(損失回避性と呼んだりします)があるということです。

このように心理学的な実証実験の結果を経済学理論に反映しています。

そのように構築されてきたプロスペクト理論では、人の利得や損失に対する評価には3つの特徴があると整理しています。

この3つの特徴について細かく見ていくことにします。

参照点依存性の心理作用

プロスペクト理論ではよく下図のようなグラフが活用されます。これは、基準値からの変化量に対して、効用(value)がどのように増減するかを表したグラフです。

効用(value)と変化量(outcome)の交差するポイントは、0ではなく参照基準値(リファレンスポイント)です。この図は、純粋な利得の大きさではなく、参照基準値からどのくらい変化したかが重要になるということを示しています。

例えば、資産100万円を持っている人で、その資産額からの増減で変化量と効用の関係を見る場合、交差点は、100万円で、横軸に資産の増減額となります。資産1億円持っている人なら、交差点は1億円になります。

100万円の利得が100万円の資産の人からすると倍増なので、非常に大きいですが、1億円の資産の人にとっては1%の利得にしかなりません。このように利得の大きさが同じでも感じる効用の大きさが変わってくるということです。

感応度逓減(ていげん)性

参照点依存性の心理作用と似た部分がありますが、参照点依存性のグラフでいうと、左右の端の方に行けば行くほど、効用が変化しにくくなっている状態のことを指し示しています。

すでに1000万円の利得のある人が、さらに10万円の上積みがあったとしても、嬉しさの大きさが大きくは変化しない状態、まだ利得の無い人が10万円の利得があるのに比較したら、小さい効用しかない状態です。

損失回避性の心理作用

言い換えると、利得よりも損失の方を過大に評価するという心理作用のことです。もう少し数字を使って例示すると、10万円の利得と−10万円の損失は絶対値を比較すると同じ10万円なので、プラスとマイナスの違いはありますが、効用の絶対値に違いはないように見えます。

ただ実際には、損失回避の心理作用が働く関係で、-10万円の方が心理的なショックが大きく感じてしまうということです。

これはリスク選好にも影響し、損失を回避したい欲求が大きくなるので、損失が出ている時に挽回するチャンスに対してリスク志向が高くなり、利得が出ている状況では利得を失うデメリットを嫌い、リスク回避志向となります。

プロスペクト理論のマーケティングへの応用

プロスペクト理論の3つの特徴は、マーケティング理論にも十分に応用が効き、様々な具体的な手法に活かされています。日常的によく見かけるプロスペクト理論を取り入れた施策では、主に損失回避性の心理作用を活用したものが多いようです。概観してみましょう。

松・竹・梅の3ランク用意する

これは参照点依存性の心理作用と損失回避性の心理作用を期待した施策で、真ん中の竹が選ばれやすくなる傾向が出てきます。松竹梅が、「高い」「普通」「安い」と認識され、参照点依存の心理作用でいうところの参照基準値(リファレンスポイント)に竹がなりやすく、一番高い松が参照点より高いので、選ばれにくくなり、損失回避で一番安い梅を選んで損したくないという気分を誘導することになります。

期間限定セール

期間限定セールの開催は、損失回避性の心理作用を期待し、「このタイミングで買っておかないと損をしてしまう」という気分を煽ることで、購買に繋げようという取り組みです。

割引・無料キャンペーンを行う

割引・無料キャンペーンを開催するのも、期間限定セールと同様に損失回避性の心理作用に期待した施策と言って良いでしょう。「割引されているのに、無料で貰えるのに手に入れないのは損」と考えてもらうように誘導する効果です。

特に無料に関しては消費者の踏み込みが強くなる傾向があります。有料のものが0円で提供される時点で、金銭取引ではなくなるという心の会計とも呼ばれる効果も大きく作用してると言って良いでしょう。

返金保証

返金保証や交換・修理などの補償を充実させることも、損失回避性の心理作用を期待できます。返金保証は自分にとって購入したプロダクトが合っていなかった場合を想像してしまって二の足を踏んでしまっている消費者の心の障壁を、返金してもらうことができると思わせて、合わなくても損をしないと思わせる効果があります。

ポイントサービス

リピーターを増やすためのポイントサービスも損失回避性の心理作用を期待した施策です。せっかく貯めたポイントを活用できないと損してしまうと感じてもらうことで、継続的な利用を促進することを狙った施策です。

プロスペクト理論を活かした価格戦略

プロスペクト理論は、マーケティング上非常に重要な価格決定のメカニズムの中にも取り入れられています。まず一つ目のポイントは、参照点依存性の心理作用の活用です。参照点(リファレンスポイント)を如何に高く維持できるかによって、価格を高く設定しても売れ行きに影響が少なくなりますので、その参照点しっかりと導き出し、それをどのように維持させるかは、重要な課題ポイントとなりえます。

よって、まずはプロダクトに対するリファレンスポイント、マーケティング的には参照価格と呼んだりしますが、ここを徹底的に探ります。そもそも何を参照価格にしているのか、その価格帯はどのくらいの金額なのかなどです。

これはSTP分析やマーケティングミックスによる客観的な現状分析と、明確なターゲティングの上で、徹底した市場調査でしか探れません。そもそも誰に売りたいのか、どういったセグメントに売りたいのかが明確になっていなければ、誰の参照価格を探ればよいのかが分からないので、当然と言えば当然です。

その上で、個別インタビューやアンケート調査などによって、参照価格を見極めるための客観的な情報を集めるようにします。競合他社の価格も影響する可能性は十分にありますので、価格調査も可能な限り広範に行なった方が良いでしょう。インターネット通販における市場調査やマーケティングにおける情報集については、別の記事でもまとめていますので、そちらもご参照ください。

競合他社があるようなプロダクトの場合は、価格調査で分かった結果に基づき、感応度逓減性に気をつけながら自社のプロダクトを選択してもらえるように、競合他社との地理的、物理的関係や仕入れや機能などを検討しながら、最適な価格を探ります。

その参照価格を分析したら、それに基づき価格設定を行っていきます。その上で、紹介したプロスペクト理論に基づいた具体的な施策(無料、割引キャンペーンや返金保証、ポイントサービス)によって、心理的障壁を下げていく試みをしていきます。この辺りを含めたプロモーションについてはまた別の記事で詳しく紹介できればと考えています。

まとめ

最近様々なメディアにおいて注目を集めている行動経済学がマーケティングにも活用されていて、特に「プロスペクト理論」がその代表的な応用例として紹介してきました。ここ20年ぐらいで急速に発展し注目を集め始めた分野なので、まだまだ新しい理論や出てくる可能性は十分にあります。

行動経済学は、人の内面も含めた行動を対象とすることから、消費者というマスを対象とするマーケティングとの親和性は非常に高いと言えます。つまりかなり応用が効く分野と言って良いでしょう。プロスペクト理論に限らず興味があれば色々調べてみると面白いかもしれません。

ただマーケティングは一方で冷徹な現実と向き合う実践の場でもあります。理論的なバックグラウンドだけではなく、具体的な行動に繋げていく必要があります。そのためには、具体的な事実の積み重ねが非常に重要であり、情報収集活動は、その中心的な活動と言って良いでしょう。

ただネットショップやインターネット通販を開業するときはスモールスタートで始めることが多く中々手が回らないことが多いでしょう。BtoBの新規事業の立ち上げも十分なメンバーが揃わずにスタートさせられるということはよく耳にする話です。

そういった時にはアウトソーシングにより時間を買うことも重要です。例えばマーケティングにおけるマーケットの調査、ネットショップの価格調査などは調べる範囲が広く中々手が回りません。そういう時にアウトソーシングの活用を検討してみるのが良いかと思います。