何かしら仕事をしていれば、見聞きすることはほぼ必然と言って良いほど、定着している言葉の一つに「マーケティング」という言葉があります。
大企業の場合、いわゆる営業と呼ばれる、その企業の商品やサービスを販売する職種で働いていれば、「マーケティング」という言葉を、ほぼ必ず耳にすることと思います。もっと直接的に部署名に「マーケティング」とつく部署もあったりするでしょう。
経済系の新聞や雑誌の記事や広告、紹介している書籍でも何か「マーケティング」とよく目にすると思います。小規模の会社やネットショップのような小規模の店舗でも、広告のチラシやダイレクトメールなどに溢れています。
これは人間に水や食料が必要なように、仕事上「マーケティング」の位置付けが非常に重要なことを示唆している一方で、あまりに使われすぎていて、拡大解釈や本来の意味からすれば誤用に当たる使い方も多く見受けられて、バズワード化している面も否定できません。何となく雰囲気だけ伝える怪しげな横文字言葉に成り下がっていることもよく見受けられます。
今回はこの「マーケティング」という言葉を改めて見つめ直し、再考する事で改めて仕事でどういう位置付けにすべきかについて考察していきます。
あまり深く考えずに「マーケティング」という言葉を使っている場合、その人の認識として「市場調査」を横文字で言っている、もしくは、広告、宣伝を含めた販促活動ぐらいの認識でいることが往々にしてありますが、マーケティングはもっと幅広い一連の活動、仕組みのことを指す定義で、市場調査や販促活動などはマーケティングの一端を担っているに過ぎません。
つまり、ある価値のあるプロダクト(製品やサービス)を提供する為の活動、仕組み全般のことを指します。もう少し詳説すると、
提供する対象、企業であれば顧客、クライアントはもちろんのこと、パートナーや属する社会とより大きな対象も含めて、何かしらその対象にとって価値のあるものを、創造し伝え届けて交換する為の、様々な活動、プロセス、機構、組織
のことをマーケティングと定義できます。
企業という単位で見れば、いわゆるプロフィットセンターと呼ばれる部門全体の活動がマーケティング活動と言えますが、プロダクト(商品、サービス)を販売する過程を例にとりながらもう少し考えます。
まず初期段階として、プロダクトを企画、開発して設計をする段階があります。そこからブランディング、競合プロダクトの有無の調査や、その価格調査を含めた市場調査、市場分析、マーケットリサーチを行い、価格設定や商品の仕様を固めていき、広告、宣伝、広報から販売促進などにより認知を広める為の活動や、マーチャンダイジング、店舗、施設の設計、設置、営業、集客、接客とその情報管理を行い、そのプロダクトがマーケット(市場)に提供されます。
この企画開発から販売し顧客管理を行うまでの一連の活動全てが「マーケティング」活動の対象となるということです。
この活動を支え、理論的な裏付けを行うために、様々な手法が開発され、またマーケティング論という学問として学術的な論点が見出されてきました。
以上がマーケティングの定義です。理解不足や安易な言葉選びで使われがちなマーケティングという言葉の定義について見てきましたが、市場調査や販促といった企業活動のミクロ部分を指す言葉ではなく、より広く長い活動を指し示し、また学術的に研究されている分野で商学や経営学などを学ぶ学部では中核を為す学問と言って良いものです。
次にマーケティングの歴史について概観しておきます。
マーケティングの定義でも触れましたが、企画から販売までの活動全般を範囲としている以上、その過程は商いが始まった太古の昔から存在しますので、一部で記録として残っている手法が現代のマーケティングの理論からすれば、非常に先進的であることは多々あることと思います。
人によっては江戸時代の越後屋の三井高利を取り上げ、無料の傘貸や店前売り、現金売りの先進性を評価したりする人もいます。
ただ現代的なマーケティングの端緒は、1900年代初頭にアメリカで発売されたT型フォードを上げる人が多いようです。この時代からアメリカは世界の舞台で存在感を増し、大国として台頭していきます。その後ろ盾になった経済力の象徴でもあるT型フォードは、所謂大量生産、大量消費の生産構造の先駆けとしてマーケティングという視点からも歴史的にも非常に重要なプロダクトということです。
1900年代が先駆けですから、およそ100年強の歴史です。とは言え、この100年で時代の様相は大きく変わっています。ほぼ全方位的に大きく変わってきていますが、それはマーケティングにおいても同様です。その変化をフィリップ・コトラーは、4段階に分けて考え、「マーケティング4.0」という考え方を発表しています。この4段階で、概観していきます。
先駆けのT型フォードに象徴される大量生産、大量消費という時代です。T型フォードがアメリカのプロダクトであることが象徴的ですが、マーケティングという考え方、学問はアメリカで始まり、発展してきました。この時代からパクスアメリカーナと呼ばれるアメリカの黄金期とマーケティングの発展が軌を一にしているのは偶然ではないでしょう。
日本においては、第2次世界大戦での敗戦後、アメリカの影響を強く受けるようになって、マーケティングという考え方が広まっていくことになります。そこから高度成長期が始まり最盛期に至るぐらいまでの時代です。
マーケティング1.0の時代を経て先進国と呼ばれる国々では生活を高い水準で支えるプロダクト、自動車や電化製品などが広く浸透し、豊かになり始めた時代で、衣食住における不安要素が劇的に減り始めた時代です。
そうなってくると、プロダクトの満足度、つまりは顧客の満足度というところに焦点が当たるようになってきます。生活を支える機能だけではなく、美しさや快適さも重視されるようになり、ブランドという言葉が意識されるようになってきました。
またラジオに始まったマスメディアは、生活水準の向上により、視覚的効果の高いメディアであるテレビ放送に軸足が移りつつある時代でもあります。
この時代の象徴的なプロダクトは、ソニーの「ウォークマン」でしょう。
これは、インターネットが切り開いた時代と言って良いでしょう。プロダクトの情報発信はインターネット出現以前までは、ほぼ企業側からの発信に限られていましたが、インターネットの出現によりユーザーサイド、消費者側からの発信も積極的に行えるようになり、情報源の多様化が一気に進みました。
そのことによって、単純にプロダクトの価値、機能や美しさだけではなく、企業の社会的な価値、貢献度、コンセプトということも広く知ることができるようになり、判断基準がより多様化し始めた時代と言えます。
この時代の象徴的なプロダクトは、Appleの「iPhone」になるかと思います。
現在進行しているのが、この区切りです。
インターネットがスマートフォンで気軽にアクセス出来るようになり、情報に対するアクセスの自由度がかつてないレベルで実現できるようになってきました。またTwitter,FacebookなどのSNSサービスの浸透、LINEなどの情報通信ツールの発達など情報の受発信の多様性がより高まったことで、より消費者の存在感が大きくなってきています。インフルエンサーやユーチューバーの存在感が増してきているのがこの今の時代の象徴と言えます。
マーケティングの歴史を4段階に分けて概観してきました。社会基盤が豊かになればなるほど、マーケティングの手法や切り口は多様化しています。
マーケティングに対する敷居はその多様化で下がっている反面、時代の各期間を見てもらうとわかりますが、そのスパンはどんどん短くなってきています。つまり時代の変化の流れがどんどん加速していると言えます。
そこにキャッチアップしていく為の方策、例えばアウトソーシングや、価格調査の業務の外注など、専門家の活用などの対策は、各立場でよく考えていかなければならない時代になっていると言えるかもしれません。
マーケティングの定義と歴史をみてきましたが、時代の変遷とともに、単純にプロダクトを企画し、製造し、販売するだけでは中々成果が上がらなくなってきている時代になってきました。
また情報の多様化やインフラ基盤の強靭化によって、様々な業種の参入障壁が低くなりつつあります。ネットショップに代表される小売業などはその最も端的な例と言えます。アマゾンや楽天、ヤフーショッピングに代表される参入しやすいレディメイドのネットマーケットプレイスもある為、比較的小規模の資本で参入できてしまいます。つまり競合が増えやすく減りにくい状況にあると言えます。
また仕入れ先も中国のアリババやタオバオのようなマーケットプレイスから仕入れることも多くなり、所謂「せどり」と呼ばれる商行為も流行している為、ネットでの小売は心理的、資本的な障壁の低さの割に、難易度が上がりつつあります。
インターネット黎明期におけるECへの進出すれば画期的に売り上げが上がるというようなブルーオーシャン状態ではなく、アリババやタオバオで実質同じ商品を売る競合ばかりのレッドオーシャン状態と言えます。
こうなってくると、競合との差別化も含めた総合的な対策、つまりマーケティングの考え方が非常に重要になってきます。
またプロフィットセンターがマーケティングの主体的な部門ではありますが、企業のバックグラウンドや社会的な活動にも視線が向けられる時代には、コストセンター側にも要求されることは多くなってくると思います。特に流通に関わる部分は、ユーザー体験に影響する為、もはやマーケティングは、一部門が担う業務活動ではなく、全社的に、もしくは経営者としての視点から考えるべき非常に重要な活動と言って良いかと思います。
今回は、マーケティングとはそもそも何なのかという点を歴史を外観しつつ、現代の状況を踏まえて、その重要性について見直してきました。
マーケティングは商行為の中で幅広い部門、分野を横断的に行う活動、部門、組織であり、その重要性は、競合が増えやすいネットショップのようなレッドオーシャン状態の業界においてはもはや必須のものと言って良いでしょう。ただ横断的で幅広い分野に及ぶ活動である以上、しなければならないことの多さに途方に暮れてしまうことも起こりやすいことと思います。
ネットショップでは、まず価格調査から手を付けてみるのが良いかもしれません。もっと踏み込んで言えば、競合商品を取り扱うのであればほぼ必須の行為です。競合がないユニークな商品を取り扱うネットショップでもない限り、同じ商品を扱うネットショップが多ければ多いほど、差別化はほぼ価格でしか付けられないからです。
ネットショップですから掛かるコストは、ほぼ最小化されている状態で、ほぼ削れる要素はないでしょう。仕入れについては、差別化されている部分ではありますが、結局それは価格に反映されることになります。
ただ、商材を多く扱っていれば、その価格調査に時間が掛かってしまいます。ネットECショップであれば、商材の数も重要な要素である以上、少ない数ではないはずです。また時間の経過とともに競合の出方が変わり、価格変更しているくる可能性は十分にある為、定期的な調査を行う必要があります。また、ネットECショップであれば大手のマーケットプレイスだけで、アマゾン、楽天、ヤフーショッピング、小さいところを含めると相当なサイト数調査しなければなりません。
簡単な作業に思いがちでありますが、思った以上に作業ボリュームがあり、気後してしまうボリュームにもなります。その時は、アウトソーシングで価格調査を行ってもらえるサービスを探すのも一つの手段です。