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標準化しても紙は残る|自治体の文書電子化と外注の実務

自治体システムの標準化について、「2025年度末で一区切りついた」とお考えの方もいるかもしれません。しかし実態はそうではありません。移行が長期化している団体は依然として多く、そして何より、標準化の対象外である「紙」の問題は手つかずのまま残されています。

本記事では、標準化の進捗状況を確認したうえで、庁内に残り続ける紙資料の課題を整理します。どの文書から着手すべきか、電子化を外部に委託する場合に何を仕様として定めるべきか。担当課の実務に沿って解説します。

移行は道半ば。3割近くが2026年度以降へ

まず、現在の進捗を確認しておきましょう。地方公共団体情報システムの標準化に関する法律により、住民基本台帳や税、福祉など20の基幹業務システムについて、原則として2025年度末までの移行が求められてきました。

ただし、期限までの移行が困難なシステムについては「特定移行支援システム」として取り扱う仕組みが設けられています。デジタル庁が2026年に公表した資料によれば、標準化の対象となる約3万4千システムのうち、およそ1万システム、全体の3割近くがこれに該当しています。

該当する理由はさまざまです。現行システムがメインフレームで運用されている場合、個別開発システムで代替調達の見込みが立たない場合、事業者側のリソース逼迫により作業が遅延している場合などが挙げられます。特定移行支援システムについては、概ね5年以内の移行完了を目指し、国の支援も延長されています。

つまり、多くの団体にとって標準化はまだ進行中の課題です。そして移行が長引くほど、旧システムと新システムの並行運用期間も長くなります。

標準化の対象は「システム」であって「紙」ではない

ここで押さえておきたいのが、標準化が扱う範囲です。対象はあくまで基幹業務システムであり、窓口で受け取る申請書や、書庫に眠る過去の台帳は含まれていません。

システムが新しくなっても、住民が窓口に持参する申請書は紙のままです。押印が廃止された書類も、多くは紙で提出されます。そして各課には、システム化される以前の紙の台帳や、経過措置期間の記録が保管され続けています。

標準化によって業務フローが変わると、この紙の存在がかえって目立つようになります。データはクラウド上で統一されているのに、その根拠となる原本は書庫にある。照会があるたびに書庫へ足を運ぶ。こうした状態が残るためです。

並行運用期間に発生する、紙での突合作業

移行期間中の団体では、さらに具体的な負担が生じます。旧システムと標準準拠システムの間でデータを突き合わせる作業です。

移行に際しては、データの整合性を確認する工程が必ず入ります。このとき、システム間の差分を確認する根拠となるのが紙の原本です。ところが原本が紙のままだと、確認作業は目視に頼らざるを得ません。職員が一件ずつ書類を繰りながら画面と照合する、という光景は珍しくないでしょう。

この作業は年度末や繁忙期に集中しがちです。しかも通常業務と並行して行われます。人員に余裕がある団体は多くないはずです。

紙のままにしておくことの、3つのリスク

1つ目は、検索性の問題です。紙のまま保管された文書は、キーワードで探すことができません。住民からの照会や情報公開請求があったとき、該当箇所を探し出すまでに時間がかかります。担当者の記憶と経験に依存する部分も大きくなります。

2つ目は、災害時のリスクです。紙にはバックアップがありません。庁舎が浸水すれば、その文書は失われます。自治体が保有する文書には、住民の権利義務に関わるものが含まれています。復元できないという性質は、民間企業以上に重い意味を持ちます。

3つ目は、引き継ぎの問題です。人事異動のたびに、書庫のどこに何があるかという知識が失われていきます。文書管理簿があっても、実際の運用は担当者の記憶に支えられていることが少なくありません。

どの文書から電子化すべきか

どの文書から電子化すべきか
どの文書から電子化すべきか

すべてを一度に電子化することは現実的ではありません。優先順位をつける必要があります。判断の軸は3つです。

照会頻度が高いものを最優先とします。窓口や電話で問い合わせが多く、そのたびに書庫へ確認しに行っている文書です。電子化の効果がもっとも早く実感できる領域でもあります。

次に保存期間が長いものです。30年保存や永年保存に指定されている文書は、紙のまま持ち続けるほど劣化と紛失のリスクが積み上がります。

そして移行作業で参照するものです。標準化のデータ突合に使う台帳類を先に電子化しておけば、その後の確認作業が画面上で完結します。移行が長期化している団体ほど、この効果は大きくなります。

逆に、保存期間が短く照会もほとんどない文書は、あえて電子化せず保存期間の満了を待つという判断も合理的です。

スキャンだけでは足りない場合がある

スキャンだけでは足りない場合がある
スキャンだけでは足りない場合がある

電子化というと、まずスキャニングを思い浮かべるでしょう。原本を画像として保存する方法です。保管スペースの削減と災害対策という点では、これで一定の効果があります。

ただし、画像として保存しただけでは検索できません。ファイル名や管理簿の情報でしか探せないため、「この住所に該当する記録を探したい」といった検索には対応できないのです。

そこで必要になるのが、テキスト化です。文書の内容を文字データとして入力しておけば、キーワードで該当箇所を絞り込めます。すべての文書に必要というわけではありませんが、照会頻度の高い台帳や名簿については、テキスト化まで行う価値があります。

特に手書きの帳票は注意が必要です。年代の古い台帳ほど手書きの記載が多く、機械的な読み取りでは判読の精度が安定しません。旧字体や独特の書式が使われている場合もあります。

外部委託の仕様書に盛り込みたい項目

電子化を外部に委託する場合、仕様書の作り込みが結果を大きく左右します。最低限、次の項目は明記しておくべきでしょう。

1. 作業場所と再委託の可否:国内での作業に限定するか、再委託を認めるか。認める場合の条件も定めます。

2. 認証の取得要件:プライバシーマークやISMSの取得を参加要件とするかどうか。

3. 原本の受け渡しと保管:搬出入の方法、作業中の保管場所、作業後の返却手順。庁外への持ち出しを認めるかどうかは、特に慎重に判断すべき点です。

4. 入力項目と精度:どの項目をテキスト化するのか。判読困難な文字をどう扱うか。この定義が曖昧だと、納品後の手戻りが発生します。

5. 納品形式:テキストファイルか、表計算ファイルか。ファイル名の付与規則も指定しておきます。

6. 作業データの消去:納品後、委託先に残る作業データをいつ消去するか。

7. 事故発生時の報告体制:連絡経路と報告期限を契約に明記します。

年度と予算の制約をどう扱うか

自治体特有の事情として、年度単位の予算執行があります。大量の文書を一度に電子化しようとすれば、当然ながらまとまった予算が必要です。

現実的なのは、分割して進める方法でしょう。優先順位の高い文書群から着手し、複数年度に分けて対象を広げていく。この進め方であれば、単年度の負担を抑えられます。

また、業者を選定する際は最低発注額の有無も確認しておくべきです。小規模な案件を分割発注する場合、最低発注額の設定によっては割高になることがあります。事前に確認しておけば、年度計画も立てやすくなります。

なお、外郭団体や指定管理者が保有する文書についても、同様の課題を抱えていることが多いはずです。庁内だけでなく、関係団体を含めた棚卸しを行うと全体像が見えてきます。

まとめ|標準化で終わらせず、紙まで含めて考える

システムの標準化は、あくまで基幹業務のデータを統一する取り組みです。窓口の申請書も、書庫の台帳も、その対象には入っていません。システムだけが新しくなり、紙は従来のまま残される。この状態を放置すれば、標準化で目指した効率化の効果は限定的なものにとどまります。

まずは棚卸しから始めてください。どの課に、どの文書が、どれだけ残っているのか。照会頻度と保存期間で優先順位をつければ、着手すべき範囲は自ずと絞られます。移行が長期化している団体ほど、並行運用中に参照する台帳の電子化は効果が高いはずです。

標準化の最新状況については、デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」のページで随時更新されています。あわせてご確認ください。

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