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【2026年12月施行】改正公益通報者保護法への備え|ヒアリング記録・調査報告書を文書として残す実務

2026年12月1日、改正公益通報者保護法が施行されます。「うちは内部通報窓口を設置済みだから対応は済んでいる」とお考えではないでしょうか。しかし今回の改正で問われるのは、制度があるかどうかではありません。その制度が実際に機能していたことを、企業側が証拠をもって示せるかどうかです。

本記事では、改正の要点を「記録」という一点に絞って整理します。ヒアリング記録や調査報告書をどのような形で残すべきか、そして紙のまま滞留している文書をどう扱うべきか。施行までに着手しておきたい実務を解説します。

2026年12月、公益通報者保護法が変わる

今回の改正は令和7年法律第62号として成立し、2026年12月1日に施行されます。主な柱は、通報妨害の禁止(第11条の2)、通報者探索の禁止(第11条の3)、不利益取扱いに関する立証責任の転換、解雇・懲戒への刑事罰の新設、そして従事者指定義務違反への是正命令の新設という5点です。制度の詳細については、消費者庁「公益通報者保護制度」のページをご確認ください。

2020年の改正は、制度そのものの設計を義務づけるものでした。窓口を設け、従事者を指定すれば、ひとまず対応は完了したと言えたわけです。しかし今回の改正で問われるのは運用の責任です。規程は整っているものの、実際の通報対応は担当者の記憶と経験に頼っている。そうした企業ほど、施行後のリスクは大きくなります。

なお、条文の逐条解説については法律事務所各社が詳しい記事を公開しています。本記事が扱うのはあくまで実務であり、通報対応の過程で生まれる文書をどう残すかという点に絞って解説します。

最大の変更点は「立証責任の転換」

今回の改正で実務上もっとも影響が大きいのが、この規定です。労働者が公益通報をした日から1年以内に解雇または懲戒を受けた場合、その処分は公益通報を理由としてなされたものと民事上推定されます。外部通報についても同様の扱いで、事業者がその通報の事実を後から知ったときは、知った日から1年間が対象期間となります。

従来は、通報者側が「この処分は通報が理由である」と因果関係を立証する必要がありました。改正後はこれが逆転します。今後は企業側が、通報とは無関係の客観的な理由による処分だったことを説明し、立証しなければなりません。紛争になった時点で、すでに守勢に立たされているという構造です。

ここで問題になるのが、何をもって説明するかです。「以前から勤務態度に問題があった」と口頭で主張しても、まず通用しません。求められるのは文書、それも通報より前から存在している記録です。処分に至る経緯が時系列で残されているかどうかが、そのまま結論を左右することになります。

刑事罰と行政措置|リスクの大きさを経営層と共有する

これまで不利益取扱いは禁止されていたものの、直接の罰則は設けられていませんでした。改正後はここが大きく変わります。公益通報を理由として解雇または懲戒を行った場合、行為者個人に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科され得ます。ただし対象となるのは故意による違反に限られます。

さらに両罰規定により、法人にも3,000万円以下の罰金が科される可能性があります。処分を実質的に決定した者や、それに関与した者も対象となり得る点には注意が必要です。なお、配置転換や減給についてはこの罰則の対象に含まれていません。ただし法律上禁止される不利益取扱いには該当し得るため、罰則の有無と適法性の判断を混同しないようにしてください。

行政措置についても変更があります。体制整備義務については、現行法と同様に公表までが上限で、命令や刑事罰はありません。一方、従事者指定義務については新たな段階が加わりました。勧告を受けてもなお対応しない場合、是正命令に進みます。命令に違反すれば罰金の対象となるほか、命令を受けたこと自体が公になるリスクもあります。レピュテーション上の影響として、経営層にも共有しておくべき点です。

通報対応で発生する文書を洗い出す

段階
段階

記録の残し方を考える前に、まず自社の通報対応でどのような文書が生まれるのかを把握しておきましょう。受付段階で発生するのは、通報受付票、通報者への連絡記録、従事者の指定記録、調査方針の決定記録といったところです。

調査に着手すると、文書は一気に増えていきます。ヒアリングのメモ、証拠資料の目録、関係者への照会記録などが代表的なものです。問題はその形式にあります。これらの多くは、その場で取った手書きメモとして生まれます。担当者のノートに走り書きされたまま、正式な記録として整えられていないというケースは決して珍しくありません。

調査が終わっても記録の作成は続きます。調査報告書、是正措置の記録、通報者へのフィードバック記録、再発防止策の実施記録まで含めて、ようやく1件分です。案件が複数あれば、その都度この一式が積み上がっていきます。ルールを決めずに運用していると、どこに何があるのか誰も把握できない状態に陥ります。

ヒアリング記録の残し方|押さえるべき4つのポイント

ヒアリング記録の残し方
ヒアリング記録の残し方

1つ目は、冒頭の4項目です。実施日時、場所、出席者、そして録音の有無。この4点が欠けていると、記録の証拠価値は大きく下がります。いつ誰が誰から聞き取ったのかを特定できない記録は、後から検証しようがないためです。

2つ目は、発言と評価を混ぜないことです。本人が実際に話した内容と、それに対する調査担当者の判断や評価は、明確に分けて記載してください。両者が混在した記録は、後から切り分けることができません。第三者が読んだときに、どこまでが事実でどこからが推測なのか判別できなくなってしまいます。

3つ目は、内容確認の記録です。作成した記録は、可能な限り本人に確認してもらいましょう。読んでもらったうえで、署名または内容を確認した旨を残しておきます。本人の協力が得られない場合は、確認を求めた経緯そのものを記録として残しておくことが有効です。

4つ目は、手書きメモを当日中に文字にすることです。ヒアリング中は手書きでメモを取ることが大半ですが、そのメモをいつテキスト化するかによって記録の質は大きく変わります。原則は当日中です。記憶が新しいうちに整えないと、無意識のうちに解釈や補正が入り込みます。テキスト化した日付も併せて残しておけば、記録がいつ確定したものかを後から示すことができます。

調査報告書は「誰が読むか」で書き分ける

調査報告書には大きく2つの用途があります。ひとつは経営層が処分を判断するための資料、もうひとつは将来の紛争で第三者が読むことになる記録です。この2つでは求められる書き方が異なります。作成に取りかかる前に、どちらの用途を主とするのかを決めておきましょう。

報告書の構造は4分割が基本です。認定した事実、その根拠となる資料、それに対する評価、そして結論という順に分けて記載します。これらを混在させてはいけません。読む側が一つひとつ検証できる構造にすることが、証拠としての価値を高めます。

また、調査を進めれば白黒がつかない部分は必ず残ります。この扱いに迷う担当者は少なくありませんが、結論としては書くべきです。「認定できなかった」と明記してください。都合の悪い部分を落とした報告書は、後から読まれたときに全体の信頼性を疑われることになります。

通報者を守りながら記録する

今回の改正では、誰が通報したのかを特定しようとする行為が明確に禁止されました。あわせて、公益通報対応業務従事者には守秘義務が課されており、違反には罰則も設けられています。記録を扱う担当者は、この点を必ず理解したうえで業務にあたる必要があります。

ここで誤解されやすいのが、記録を残すことと誰もが閲覧できる状態にすることは別だという点です。閲覧できる範囲は限定しましょう。従事者に指定された者だけがアクセスできるという設計が前提になります。共有フォルダに置いたまま権限を設定していない、という状態は避けてください。

実務では、記録を分離して管理する方法も有効です。通報者を特定させる情報だけを別管理とし、本文は匿名化した形で扱います。原本は限定された場所に保管し、本文は必要な範囲で共有する。この形をとれば、記録の保全と通報者の保護を両立させることができます。

「探せない記録」は残していないのと同じ

紛争はすぐに起きるとは限りません。処分から1年以上が経過してから争いになることもあります。短期間で廃棄する運用は危険です。保存期間は数年単位で設定し、あわせて文書管理規程の見直しも進めておきましょう。

もうひとつの落とし穴が、保存形式です。紙のファイルに綴じたままでは、いざ必要になったときに出てきません。数年後に特定の案件の記録を数分で取り出せるかどうか。テキストや文書ファイルとして残しておけば、キーワードで探し当てることができます。

ただし、電子化しただけでは不十分です。ファイル名の規則も決めておきましょう。日付、案件番号、文書種別の3点を含めるのが基本です。ルールなく保存された数百のファイルは、紙の山と大差ありません。

施行までにやること|3つのステップ

ステップ1は、規程と体制の整備です。内部通報規程を見直し、従事者を指定してその記録を残します。あわせて、受付票や調査報告書の文書テンプレートも作成しておきましょう。テンプレートがあれば、担当者が変わっても記録の粒度が揃います。

ステップ2は、既存文書の棚卸しと電子化です。紙のまま滞留している文書を洗い出します。手書きのヒアリングメモや、過去の調査記録が該当するでしょう。これらを電子化し、決めたファイル名規則に沿って保存し直します。工程としては、ここがもっとも手間のかかる部分です。

ステップ3は、運用の定着です。アクセス権限を設定し、担当者向けの研修を実施したうえで、その研修記録も残してください。研修記録は、体制整備を行っていたことの証拠にもなります。実施して終わりにせず、必ず記録として保存しておきましょう。

電子化を社内だけで回すのは難しい|3つの壁

1つ目は、業務量が予測できないことです。通報案件は突発的に発生します。平常時はゼロでも、いったん発生すれば一気に大量の記録が生まれる。専任者を置きにくい理由がここにあります。

2つ目は、手書きが読めないことです。ヒアリング中のメモは急いで書くためクセ字になりやすく、作成した本人以外には読めないというケースも珍しくありません。時間が経てば、本人でさえ読み取れなくなることもあります。当日中のテキスト化が重要だと申し上げたのは、こうした理由からです。

3つ目は、担当者の兼務です。通報対応の担当者は、法務や総務との兼務であることが大半でしょう。本来業務と並行して進めるため、電子化はどうしても後回しになります。労働時間管理が厳格化するなかで、残業によって処理する前提を置くことも現実的ではありません。

外注するときの線引きと、委託先の選び方

電子化の外注を検討する場合、まず線引きが必要です。通報者を特定させる情報を含む原本や、係争が具体化している法的書類は、外部委託になじみません。なお当社では、裁判提出用を含む法的書類はお受けしておりません。この点はあらかじめご承知おきください。

一方で、外注に適した文書もあります。匿名化・マスキング済みの記録、内部通報規程などの規程類、研修資料、委員会の議事録、監査記録、過去の紙台帳などが該当します。これらを外部に任せることで、担当者は判断を要する業務に集中できるようになります。

委託先を選ぶ際は、プライバシーマーク等の認証を取得しているか、作業をすべて国内で行っているか、実際に作業するスタッフの属性、そして納品形式の4点を確認してください。外注時のセキュリティの考え方については、「データ入力の外注はセキュリティが不安」という方への記事でも詳しく解説しています。

まとめ|記録が残っている企業だけが説明できる

改正公益通報者保護法が問うのは、制度の有無ではなく運用の実態です。立証責任が転換された結果、記録を残していない企業は、そもそも説明する手段を持たないことになります。やるべきことは決して複雑ではありません。発生する文書を洗い出し、残し方のルールを決め、紙で滞留した記録を電子化し、探せる形で保存する。このサイクルが回り始めれば、施行後も慌てずに対応できます。

なお本記事は制度の概要を解説したものです。個別の事案における判断については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

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